続き物注意。
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【後日談/ADDITION】
*1
「……ほん」
辞書の単語を読み上げる調子だ。次の瞬間抑揚が一気に変わる。
著者、タナッセ・ランテ=ヨアマキスとはどういうこうとかと、こどもは両の手で薄い書籍を手にしながらタナッセを見上げてきた。
いつもの中庭の長椅子でのことだ。隣に座るこどもが輝く瞳いっぱいに疑問を広げている。
言うまでもなく、ヤニエ師の仕業だった。置いていかされた詩歌がヤニエの客人の目に止まり、刊行と相成ったわけだ。当初は筆名も考えたものだが、今更と思い直した。こどもとの間柄が変化したことは、タナッセやリリアノが十二分にやるべきを整えたあとでだが、公表することとなる。悪い意味で注目の的になるのが、早いか遅いかの差に過ぎない。
「見ての通りだ、お前の目は節穴か。……と言いたいがな。私も驚いている」
何しろ全くの事後承諾だったのだ。ヤニエからの手紙が届いた時、タナッセは思わず変な声を漏らしてしまった。だがまあ、晴れてかどうかはさておき、
「とにかく、その薄っぺらい書物を上梓した――することになった。口うるさい連中も多いだろうが、放っておけ」
こどもは嬉しそうな顔で、首を横に振った。
そんなのはどうだっていい、おめでとう。
*2
衣装部屋のある廊下に出てすぐ、奇怪な声を上げながら組み合っている二人の姿が目に入る。
史上初、同い年の印持ち二人が押し合っていた。
ヴァイルの方が押していてこどもの方は僅かに背を反らしていたが、決定的な不均衡とはなっていないらしく、ぎりぎり釣り合ってしまっていた。
また私に代わりに衣装合わせをさせる気だろう、と苦しい声の下こどもが言った。
「だって妙に張り切ってるんだよ衣装係の奴らさー。あらヴァイル様最近は随分次代の王様らしくおなりになってーだったら今日はちゃんと一日付き合って下さいますわよねーほらこれとかこれとか、もう完成させないと間に合わないのよねーって! それ全然予定になかった衣装じゃんって言ってるのに! 大体おんなじだしもう一人でもいいよねって言ったら問題ないって言われたし!」
途中の物まねがやけに似ており、タナッセは吹き出した。彼に気付いていなかった年下二人が同期した動きでタナッセに顔を移した。途端、こどもの方が尻餅をつく。
「よし、俺の勝ちね。任せたから。っていうか、タナッセ来てたの本当に気付いてなかったんだ。まだまだだぞ、頑張れよなー」
快活な笑い声を上げ、従弟は去って言ってしまった。
こどもは立ち上がりながら頬を膨らませる。
私に対しては全然態度が変わらない……。やっぱり噂は話半分だ。
*3
こどもとの一件をリリアノに伝えてから、どうも彼女は機嫌が良さそうにタナッセと話すことが増えた。迷惑を掛けているとしか思えないのに、一体何故なのだろう。領地のことなどリリアノと詰めるため、彼女の私室で話をしていると言われてしまった。
「莫迦者。親孝行という言葉を知らぬのかお主」
「いえ……しかしこれは、いらぬ手間をおかけしていますし」
だから莫迦だと言ったのだ、と母は子供に笑みを深くした。
「たまには我にも親らしいことをさせるが良い。息子が二人もいるのにどちらも子供らしい要求をせなんだ、やることがなくて暇をもてあましていたよ、我が息子」
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お付き合い頂き誠にありがとうございました。
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