いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2012年11月5日月曜日

【かもかて小ネタ】光に寄せて

【 注 意 】
・タナッセ愛情エンドB時の篭り明けネタ、時間が掛かった場合
・主人公が一言二言喋る

 

光 に 寄 せ て


 寵愛者二人の篭りは互いに長いものだったが、特に長かったのは前年見いだされた今一人の寵愛者だった。つまり、今し方医士の診察を終え問題皆無の太鼓判を押された彼女のことである。またぞろ婚約者である元王息殿下は陰口を叩かれているだろう。その明白さに、彼女としては自身の不甲斐なさを感じてやまなかった。全く何が寵愛者だというのか、死線の一つや二つ余裕で越えさせろ、というのが先日まで彼であった彼女の言い分になる。下世話な噂を好み、低俗な尾ひれをつけたがるきらびやかな貴族たちがどんな盛り上がりを見せているかと思うと今から暗澹とした心地になった。
 なったのだが。
 居室の扉を開け、使いを出し真っ先に篭り明けを伝えた彼――タナッセが、いかにも落ち着かない様で応接室を行ったり来たりしている姿を見れば、思わず彼女の顔はほころんだ。タナッセはそんな彼女に駆け寄ると、言葉一つなく背に手を回す。抱きすくめる。急な動作に驚く彼女はらしからぬ行動を取った婚約者に抗議の声を上げるが、背中と腰近くに回された両腕にこもる力が強くなるだけだ。彼女は肩に押しつけられる顔に乗せた色を驚きから戸惑いに変え、改めて、
「タナッセ、あの、……心配かけてごめん」
 言って、何も言えずにいる彼の背に手を回し返した。慣れない動作を行う彼女の腕はぎこちなさを描くが、確かに彼の背中をあたためる。抱き合う熱より互いのてのひらの熱がよりあたたかく感じられるのは、あの日を思い出すからだろうか、と小さく呟いた。聞きとがめたらしい彼は腕の力を緩め、ようやく彼女をと目を合わせた。表情は罪悪感に満ちており、力のこもった唇から漏れるのは自虐の言葉。あのことがなければもっと楽だったろうにとか、私のせいでとか。確かに苦しみは長かったが、彼女は自分の苦しさよりも、やはりタナッセがこうして辛そうにするほうがずっと嫌なものでしかないから、はっきりと言ってやることにした。
「耳貸して」
 と腕の力を緩めさせ、彼女はつま先立ちする。恋人の耳に唇を寄せ、囁く。
 私の好きな人をそんな風に悪く言うな、そもそもあの一件がなければ今こうしてあなたに抱きしめてもらえる関係になれなかったんだから、篭りの大変さなんて毛先ほども感じない、と。
「――――っ!」
 吐息の言葉を聞き終えた彼は、瞬時に身を離し囁きの主を赤い顔でまじまじ見つめた。眉根は寄らず困惑に近い八の字を描き、口は横に広げられ、いかにも隙だらけな表情に、彼女は思わず笑みを零し、だいすき、と今度は自ら寄り添った。両手は赤面して固まったままの両肩にそれぞれ当てる。酷く控えめな接触は彼女自身先程の言葉が気恥ずかしかったためだ。
「お前は、本当に訳が分からない奴だ……」
 けれどそう言って彼がまた強く抱きしめてくれるのだから、何もかもが全く問題ないと、安堵の息を深く深く、彼女は吐いた。





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タイトルはリトバスOSTから