いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2012年11月24日土曜日

【かもかて小ネタ】いつかは まみえる こんぺいとう

【 注 意 】
・モブ衛士視点三人称
・タナッセ愛情ルートABどっちか後



いつかは まみえる こんぺいとう



 朝早くに雨は上がり暖かな陽射しが何もかもをくまなく照らすその日、しかし中庭の陰りがちな一角に肩を落として歩く若い衛士がいた。理由は至って単純だ。逢い引き相手に振られたのだ。それも、待ち合わせの鐘が鳴るよりだいぶ早く喜び勇んで足を運んだらば彼女が同僚と若気の至りを頑張っていて。
 様々な色味を含んだ怒りの感情は、果たして彼女へ向けたものなのか同僚へ向けたものなのか、はたまた自身に対するものなのか。理解するより先に思考は感情に流された。乱反射する感情の爆発を意地で防ぎながらも足取りの不確かさは隠せないまま、彼は普段足を踏み入れない方向に進んでいく。見慣れぬ奥地だと気がついたのは、なんの加減か、彼の曇りがちな瞳へ強烈すぎる光が差し込んだからだった。
 目が慣れると、光の出所が僅かに開けた場所だと分かる。中央には朽ち気味の噴水が蔦に巻き付かれ、それでも輝く水面を主張している。成程、あれが彼の目を射た原因だろう。だがしかし、何より彼の目を奪った光景があった。噴水の足元、陽光の眩しさを避けた場所。一人は眠り一人は膝を貸した、童話の挿絵を思わせる男女が一組揃っていた。噴水に遮られた陽光はなおも強く輝き二人の姿を縁取るようで、周囲が中途に朽ちていることがまた一層夢物語感を煽っている。
 女の方は身動きの音で衛士の彼に気付いたらしく、眠る男に向けていた顔を上げた。すると紗幕のようだった前髪が額を滑り、
「…………!」
 彼は息を呑んだ。一瞬覗けた額の中央には、神の徴、寵愛者の証が輝いていたからだ。彼女は、もう一人の寵愛者なのである。つまり、女の膝を借り衛士に頭を向けた男は、先代王リリアノの息子、タナッセ・ランテ=ヨアマキスということになる。何かにつけて細かく広がる噂は悪いものばかりな元王息殿下が、外で、下に幅広の布が広げてあるとはいえ土草の上で、他者の膝を借りて、眠っている。
 ――衛士の頭の中は先程までの混迷と挿絵のごとき現実と今判明した驚愕で、逆に落ち着いた。落ち着いたので、踵を返す。出歯亀は趣味ではない。会釈をして背を向けた彼に、微かだがよく通る高くも低くもない声音が投げかけられた。ありがとう、と一言だけ。
「――――」
 若い衛士は反応に困り、しかし静けさを重んじたことへの例に対して反応を返すこともそもそも無粋だろうと城への歩を進めた。しばし歩いていくと、逢い引き相手の彼女が頬に手を当てながら彼に困り顔の笑みを向けて寄ってきて、
「いくら待っても来ないんだから。僕だって忙しいところ仕事を抜けて来たのに……まだ少しは時間があるもの、行こうよ」
 腕を引っ張られたので腹の底から憤りを強い呼気として吐き出す。そして、そうして言いたいこと全てをなるべく冷静に重ねていって、結果として彼の頬には赤い平手がついた。だが、気分は今日の天気と同様になる。あの陰険王子でもあんな良い相手が出来るのだ、失恋の一つや二つどうというものでもないだろう。





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モルさんは主人達の視界に入らんよう、
気配消して影に隠れるいい衛士。