いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2012年11月29日木曜日

【かもかて小ネタ】てをふるあのこはきせきのあかし

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後、タナッセが脳内で反省しつつ惚気ている
・タナッセ視点三人称




てをふるあのこは きせきのあかし



 朝目覚めると大抵彼女はまだ眠りを享受している。起きている時は怜悧な表情の印象が強いが、意識ない彼女はどうにも幼い。あどけないと形容してもいいほどだ。タナッセは二人分の体温にあてられてだろう、上気している彼女の頬を撫でる。あの時は……今でも思い返せば怖気しかもたらさない唾棄すべきあの儀式の時とは、まるで違う。かつて、彼女がまだ彼であった頃、非道をはたらいたその時のことだ。未分化らしく小さく細い身体を縛られた彼は、普段の強い眼差しも小憎たらしい言葉も封印して、諦めに瞳を閉じた。その時の、諦念の二字を当てるしかない大人びて醒めきった無表情はよく覚えている。
 いや、とタナッセは内心首を振って考え直した。その記憶より前に、見たことがある。見覚えがある。今夢見る彼女と比べるにそぐう、意識もなくした彼の記憶が、ある。冷え切った彼を感じたのも、まず最初はそこではなかったか。地下湖に連れ出し、突き落としたあの日の――
「……、」
 息を詰めた音が、隣の彼女の白いむき出しの首辺りで鳴らされる。次いで、一度浅く身を丸める動きを取るが、すぐに身体を足先までぴんと伸ばし、背も反らした。小動物のようだなと、タナッセはいつも思う。身体を伸ばしきると一気に力を抜き、タナッセを見上げながら微笑む。いつも通り、おはよう、と言う。起き抜けのかすれた、しかし甘えしか感じられない吐息の声に幸福を感じて同じ言葉を返した。そして続く言葉も慣れている。もう少しだけ眠っていたい、とまた目を閉じるのだ。普段であれば起床を促すところだが、今日は元々休息を取ると決めていたし、……昨夜は激しかったので、彼女の背に腕を回すことで答えとした。瞬く間に、穏やかな呼吸が胸の辺りで響き始めた。表情はほとんど見えないが、やはり再度の眠りでも愛らしい寝顔なのだろう。
 そうして思考は過去へと戻る。
 親切面して地下湖に連れ出したあの日、溺れる彼は途中で明らかに抵抗を止めた。力を抜いた。落ちるに任せた細身をモルに急ぎ引っ張り上げさせると、確かに水ではないものが閉じた目の端から一筋流れ落ちた。だが、それでも浮かぶ表情は子供らしからぬ色を帯びていたのだ。思わず肩を揺すって一度呼びかけてしまったのは、やはり憎しみに隠れて強い感情が育っていたのだと、そう思っている。ずぶ濡れの肩は当然冷え切っていた。
 今ある肩に手をずらすと、もちろんあたたかい。あたたかいのだ。
 寝顔は穢れを知らない幼子のようで、身体はあたたかく、瞳を開けばタナッセを真っ直ぐ見つめてはにかみに似た微笑を零す。至上の幸福と言わず、なんというべきか。彼女が知れば大袈裟だと慌て出すだろうが事実だ。そしてその奇跡は続いて行くのだと、彼は既に信じて疑っていない。










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一つ前(「Phtonos」)が友情育む愛情ルート話なら、
こっちは完全愛情ルート一直線話。