いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2012年11月16日金曜日

【かもかて小ネタ】きれいな感情

【 注 意 】
・タナッセ愛情B後、タナッセ視点三人称
・木登りデレデレ主人公



き れ い な 感 情



 仕事に区切りを付けたタナッセが歩いていると、風に揺れる木漏れ日の中、中性服をまとった女性が木の高みにいた。中性服は特別あつらえのものだ。まとう女性は当然ながら見覚えがある。領地に来てからだいぶ時間も経ちほぼ以前と同じ程度健康体になった、彼の妻である。木登りなど貴族のすることかそもそも危ない降りてこいと初めの時分は注意もしたのだが、どうにも危なげなく登っており――木の高みに腰掛ける彼女の横顔が穏やかに過ぎるせいで、なし崩しに認める行為となってしまった。
 今日も、降りそそぐ細切れな陽光が彼女の頬を照らしている。声はかけずに去ろうとタナッセはきびすを返したが、行ってしまうのかと柔らかいなじりが空からかかった。振り向き見えたのは枝と幹とを器用に伝う小柄な細身。軽やかに地上に降り立った彼女は勢いを殺さぬまま彼に抱きつく。
 急な仕掛けに支えきれず後方へ数度たたらを踏んで、全くこいつはとタナッセはとくとくと説教を始めるが、肝心の相手は笑い声を上げて聞きやしない。きちんと聞くよう、大人に言うような代物ではない言葉を説いた。しかし彼女は違うと首を振った。来て欲しいと思った時に来てくれたのが嬉しくてしょうがない、と今度はくぐもった声で笑んだ。
 ……急激に体温が上がったのは、抱きつかれた上顔などは彼の胸に埋めたまま熱い息で喋られたからだ、と内心思い、ただの偶然だろうと返す。冷たくも響きかねない言葉に、それでも妻は笑みを含んだまま同意をよこした。





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タイトルは新居昭乃の楽曲から。
主人公にも仕事は振り分けているが、
タナッセ受け持ちの半分程度とかいう妄想。