いわゆるフリーゲームに関する感想や二次創作メインに投稿しています(2023年現在)。取り扱い作品:『冠を持つ神の手』

2012年11月14日水曜日

【かもかて小ネタ】夜露の想い出

【 注 意 】
・タナッセ愛情エンド後、A・B問わず
・夜らしく暗めの一幕
・おいろけな描写アリ、そういう嗜好がほんのりあるようなないような、という微妙さ
 (電○文庫の中でも対象年齢少し高めの執筆者程度に)



夜 露 の 想 い 出



 夜中にふと目が覚めると、タナッセは鼻をすすり上げる音を聞いた。いや、むしろその定期的な音こそが彼の眠りを妨げたものだろうことは明白だった。音は、腕の中からしている。よく見れば分化してなおちいさな身体を更に縮こまらせようとしている妻の頬に涙が流れており、だが、小さく名前を呼んでも反応がないので、いまだ夢の住人なのだろう。かなりの悪夢にしか思えず、タナッセは頼りない肩を強く揺すった。ひゃ、と短い悲鳴に似た驚きの声と共に彼女は目を覚ます。丸く見開いた瞳が、何、とぐずつく声で彼に問いかけるが、訊きたいのはむしろタナッセの方だった。自らの嗚咽に気付いた様子の彼女は一人納得の感嘆詞を零し、起こしてごめんなさいと顔をタナッセの胸へ押し当て、両の手は彼の夜着を握りしめる。昔、出会った頃のようには肩肘張った態度こそ取らなくなった彼女だが気の強さは健在で、あからさまな甘えを見せるなど珍しい。言いたいことはあったが、改めてその身体を抱き直し、沈黙することにした。……時折起きる、日常ではないが稀でもない夜だ。
 微かな衣擦れだけが寝台の上でしばらく響く。他には何も耳に届かない。あるのは彼と彼女、互いの体温だけだ。
 あのね、と舌足らずな甘い呼びかけがあったのは、どれ程時間が経ってからだろうか。母さんの夢、見た、と小さく続く。
「……そうか」
 一言だけ返すのがタナッセにはやっとだった。涙を流すような母の夢がいかな内容であったか、いつもながら問うことは難しく感じる。母を亡くして間もない“彼”に、同情の本音も混ざっていたとはいえ、皮肉と嫌味を投げかけた記憶が駆け巡って仕方がない。加えて、彼は、そして彼女も、母親に関する話は一度もしたことがないので。
 会った頃とはまるで違う、白く細く柔らかく、貴人の手になった指先が、タナッセの唇に触れた。潤みを帯びた視線が彼の瞳を捉えると、何も言わずに瞼を閉じる。顎を上げる。しばし迷って両の瞼に、その奥の瞳にあたたかみを落とすのは、彼らしい逃げの気持ちからではない。あたたかみはそこから頬をなぞり、泣き濡れる冷えた唇を包むと上と下へ割り開いて舌で上顎や歯列もやわやわと撫でた。惑う彼女の舌先も絡め取って、粘液質の音が静けさを破る。彼女からの拒絶はない。今はタナッセの胸元にある浅い握り拳が時々身を押しやる動きを取るが、拒絶ではないと彼は知っている。証拠に、触れ合う唇を一度離しても、あるのはもっと、とねだる甘く熱いかすれた響きと両脚をこすり合わせる控えめな衣擦れ。タナッセは彼の妻の、甘く爛れた要求に応える動きを取った。
 ――本当のところ、彼は尋ねてみたいと思っている。
 だがしかし、決めているために問い尋ねることは出来ないのだ。かつて未分化のこどもを死の淵に追いやり、自身の処遇を覚悟して、けれど救われた上に愛すら差し出された。口は回るし手は出るし何より額の選定印の通り優秀であったこどもは酷くタナッセの神経を逆撫でしたはずだというのに、故に儀式を思い切れたというのに、彼はどうにも抜けていて向こう見ずで情が深くて莫迦正直で……莫迦正直にも程があって。守ろうと、気付けば自然に決めて――いや、思っていた。だから、出来ない。彼女が望んだのは慰めで、夢の中身の吐露ではないのだ。
 タナッセは喘ぐ彼女の夜着の裾をたくしあげると太ももを外側から身体の中心へ、蜜の滴る中心へ指を進める。途中までは緩やかに、滴りの中を貫く時は一気に。軽く爪を引っかけるように中をかき混ぜれば、高く細い声が無防備に彼に絡みついた。“そんな嗜好”は持ち合わせていないと首振る彼女は、けれども軽い痛みに強く反応して、しかし厭うどころか頭の片隅で喜ぶ自分がいることをタナッセは自嘲する。
 そうして冷えをあたたかさから熱へ高め、更に向こうの高みへと数度行ってしまえば、身体はくたくたで眠りは瞬く間に彼と彼女を覆う。夢も見ずに泥の眠りに沈めるだろう疲労と倦怠があった。それでも、いずれは、と強く思いながら、タナッセは眠りの淵に落ちていく。腕の中に収まる小柄な身体の頬には、確かに安堵の微笑が浮かんでいた。





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まだまだ十五歳、不安定な感じで。